カイはラフォーレ前を歩いていた。
今日はダンスレッスンが早めに終わって
来斗が欲しい服があると言ったので付き合うことにした。

人多すぎ。
だからここはあんま好きじゃない。

ダンススタジオが原宿にいるけど竹下通りは避ける。
ユニット活動が増えて、変装しても見破れるのが多い。
今日も何気ない服装で帽子を深く被った。
でもやっぱり背が高いから目立ってしまう。

「カイ。ここ、ちょっと入るけど」
と声かけられて来斗と一緒に店中に入ったけど

狭いし、人多すぎ!
ぶつかるし、動けねー
「俺、外で待ってるから」
店から出て、その横で腕をくんで顔を若干伏せてぼんやりしてた。
そのぼんやりした視界に椎の姿が見えた。
「あ、」
スカウターに掴まれて困ってる

会ってない間、椎はもっとキレイになってた。
神様の悪戯なのか偶然にもばったり会ったことがなくて
学校や収録帰りに偶然会いたいってことをどれだけ願ってたのか

その征服とても似合うよ。
一人で来てんのか?
声掛けたい
話したい

そんなことを思ってたら足が勝手に踏み出そうとしてる。
偶然だし、
挨拶くらいいいじゃん。

「興味無いって言ってんじゃん。」
急に登場した人物がしつこく話しかけてたスカウターを追い払った。

誰だ?
知り合い?

椎は{SONODA BASEBALLCLUB}と書いてあるかばんを持った野球野郎に
笑顔を満面にして楽しそうに話してる。
その場面をみてると自然に顔が歪んだ。
苛立ちが収まらない。

今すぐにでも駆けつけて聞きたい。
そいつはお前のなんなんだ?
そいつはどうして君の傍にいられるんだ?
一緒に笑い合えるんだ?
って


何だか悔しくてこぶしに力が入ったけど

「何怖い顔して見てんだ?」
と来斗がカイに話掛けた。
「ああ、なんでもない。」

頭の中がぼっとしててそれからどんな話したかあんまり覚えていない。
帰り近所の公園でバスケーをやってる工達を見かけた。
カイは公園の中に足を運んだ。
ちょうど工がタオルを取りにベンチに戻っていた。
「おい。」
カイは工に声をかけた。
「おーちび。最近盛んでるみたいね。」
「まぁね。そっちもアイドルでもないくせに横行してんじゃん。」
「フッ、それは仕方がないね、周りがほっとかないんだもん。」
「つーか、何シスコン手抜きしてんだよ。」
余裕かまして笑う工に低い声で聞く。
「手抜きはしてねーけど?なんのこと?」
「園田の野球野郎・・・椎幸せそうに笑ってた。」
「あ、日向君ね」
直もベンチに腰を掛けた。
「あいつカッケだろう?野球めちゃうまいし」
「別にそんなこと聞いてないけど」
「去年、一年ルーキーで新人賞取ったピッチャー。
男前で、時間がないからしょうちゅう会うことは出来ないみたいけど」
「あっそー」
「マメらしいよ。女の子ってさやっぱマメな人に惹かれるじゃん。
俺は一途になれねーから独り身だけど」
「まじで聞いてないし」
「椎は日向君のことあんま話してくれなくてもうお兄ちゃんは寂しいのよ~。」
「うざい」
眉をしかめて直を睨みつけた。
「知りたいのかな~と思ってさ」
直はカイの機嫌などはまったく気にせず意地悪そうに笑って見せた。
「絶対、馬鹿にしてんだよね。俺のこと」
「してないのさ、やめろ直。」
少しは真面目な顔になった工が答えた。
双子なのに、キャラーはまったく違う。
「中学卒業前にも言ったけど、俺諦めてないから」
カイの顔も真剣になった。
「アイドルがそんなこと言ってもいいの?」
「関係ねだろう」
「関係あるんだよね。椎は一般人だから」
「俺は別に・・」
「父さんが俳優で、ただでさえカメラ浴びちゃう環境。まあ、それは仕方ないことだと思う。
俺たちも望んでないけどそういう風に騒ぎになっちゃったりして、

俺らはそれはそれでいいし、なんとも思わないけど、
椎は女の子だ。感受性の鋭い普通の高1の女の子だ。いつも俺らが大切に守ってきた。
マスコミは何かを掴んだら暴走する。
ない事もある事になったり、それを見る人は真実だと思い込んだりもする。
だから出来るだけ椎にはマスコミに触れさせたくない。
後ででも本人にその意思があれば、それはそれでいいと思う。
これは父さんも同じ考えだし。
だが今の椎にまだまだ興味のない世界だ。
それにカイ、厳しい世界でここまで生き延びた。
その事務所であんだけ練習してる子がいんのにテレビに出たり、売れるのって簡単なことでは
ないでしょう?だからお前には自分が選んだ道で成功して欲しい。椿が履歴書送ったこともあるけど
ただそれだけでここまで来れたのか?
アイドル頑張って欲しいんだ。兄貴の気持ちとファンの気持ちだ。
俺は男には興味ねーぇけどよ」
「いや俺、今のちょっと感動しちゃった。」
直は涙を堪えるような仕草をみせた。

なに、それ
ちょっと嬉しけど

「そんなこと言われたら、なにも言い返せないじゃんか。」
カイは少し口を尖らせた。
「俺は、お前より大人だかんな。」
「ユニットの中でも一番人気だって?本当、成長したよ。ちび」
「今の調子じゃもっと売れるって。頑張りな。アイドルさん。俺らも帰ろうか」
工と直は荷物をまとめ始めた。その姿をじっと見つめるカイ
「アイドルじゃねーよ」
だめ息交じりの少し小さい声でつぶやいた。
「なにか言ったか?」
工たちはタオルを首にかけて、かばんを持った。
「一人の女の子も惹かせないで何がアイドルだよ。」
そう叫んでカイは悔しそうに肩で息をしていた。
「前、約束したたろう。それ今守れ」
「何、約束って?」
真っ直ぐな瞳で工を見るカイを見て直が尋ねた。
手を伸ばした工はフッって笑ってカイの髪の毛をくしゃくしゃと乱した。
「今ちょうど181」
「面白いよ。カイ」
二人の会話を聴いてなに、なになにを連発してた直は何か思い出したように
「お前デカすぎ。アイドルってもっとちっちゃくねか?」
と耳元でつぶやくながら肩に手を回して歩き始めた。
「近すぎ」
横目で直をにらみつけた。
「まぁまぁ、何が欲しい?」
直はカイに問いかけた。
「転校」
「なんだ、日向君と別れさせてとか思ったのに転校か・・つまん、え???今、なんだって?!」
直はびっくりして足を止めた。いつも間にか工の足も止まっていた。
「今俺が通ってる学校に椎を転校させて欲しい」
カイは落ち着いた顔でゆっくりと話した。
「本気か?」
工がカイに聞く。
「ああ、もちろん本気さ」
「これはさ、俺らが勝手に決めていいもんじゃねだろう。椎ももう高1だしさ
転校する時期でもないし、仲良くなった友達とも別れるし、急にそんなことするのは
厳しいよ。」
お兄ちゃん顔になった直は深刻に答えた。また続く
「それに、何がメリットでその学校に行かせるワケ?同じ学校じゃなくても会えるじゃんか。家も隣だし。
約束は違うモノにしとけ。」
「会えない。連絡もできない。家が隣でも俺には遠すぎる」
「なんだよそれ」
「俺が聞きたいくらいだよ。」
直の言葉にカイがそう答えた。
「今まで仲良くしてきたのがウソみたいに、話相手にもなってくれないし。
俺なに悪いことしたか全然覚えてねーもん。だからきっと何か理由があるんだろうと思って避けられるままにしてきた。でもそんなくだらないこと一人で考えるのヤメたよ。まともに口利けなかった2年戻したい。学校では普通の高校生活がしたい。椎と一緒にしたい。卒業前に一度誘った。同じ高校行こうと。でも兄さんたちの学校にするって断られた。」
「俺らのせいか?」
「ずっとシスコンしてきたからでしょう」
「馬鹿」
「俺、こう見えてもちゃんと学校行ってるんだ。寝る時間なくても必ず出席しようとしてきた。
仕事してるからってサボったり、言い訳つけて欠席しない。これだけはこれからも変わらない。
強制的に転校させろってコトじゃない。椎にほんの少しでも俺と同じく一緒に高校生活したいって言う気持ちがあればの話だよ。兄さんたちが居たからその学校に行ったんだから話つけてくれ。俺一度断れたし、今更こっちから言うのは変でしょう。」
「変わってるヤツ」
工がポツリと言った。
「それに敵倒しは自分でやるから手出しはいらねー」
ハハハハハハッって工と直は大声で笑い出した。
「お前がそこまで言うなら椎に話はしてみる。しかし結果は保証できない。」
「ああ」
「それにしてもお前よくそこまで伸びたね?人間の身長って思うままになる訳?」
「恐ろしいヤツ」
工と直は不思議にカイをじろじろと見た。
「自分でも驚いてる。工君に180超えたらって言われた時にはぜったいふざけてるんだと思ってたし」
「何君?」
「あ、ごめん。事務所ではみんなに君付けしてるんだ。」
「テレビで聞いたことあるかも!」

なにひとつ変わってない現実でもカイの足取りはなんだか軽かった。

椎にも
少しでも俺と同じ想いがあれば
それは大きな希望になる

そして
その日は意外にも早く訪れてきた。