「あっ!可愛い子見っけ~た!」
「どこ?どこ?」
収録を終えて控え室に戻る廊下でメンバー達が騒ぎだした。
「ほら、カイ。めちゃ可愛いよ。どこの事務所なんだろ」
「俺は興味ねぇし」
と言いながら振り向いた先に、
PD会議室の入り口で彼女はヘッドフォンを耳にして立っていた。
背の高い、細い体に白い肌
お人形さんみたいに小さな顔に大きい目
きらりと光るピンクの唇。
あ、ヤだな
「声掛けてみようかな」
来斗らいとがポツリと言って歩き出した。
「もう終わったの?」
彼女は会議室から出てきたイケメンの中年男に腕を掴んで微笑んでいた。
「えっ?ええ?」
びっくりする来斗の後ろ姿
「何か用か?」
来斗に気づいたイケメンの中年男は厳しい顔で聞く。
「いいえ、通り掛かっただけです。」
「嘘付け~。この子はダメだからね。俺のもの」
「尊敬します。」
「だろう?君には百年も早いよ」

なに自慢してんだよ

カイは心の中でそう思いながら
「来斗、帰ろうぜ」
と声を掛けた。
メンバー達はクスクスと笑いながら肩を落として戻ってくる来斗に手招きをした。
楽しそうに腕を組んで帰る彼女たちの後ろ姿がみえた。
「豊さんには叶えないな。ここ放送局だぜ?てか彼女若すぎじゃない?」
来斗の言葉にみんなも妄想暴走中
「違うから」
カイがつぶやいた。
「そんなんじゃねーから」
「なに?なに?お前なんか知ってんの?知り合いだったりして?」
近づきも出来なかった来斗がカイに食いついた。
「知らねぇよ。」
と低い声で答えたカイは不機嫌そうな顔で控え室に入った

なんでもある楽しいデパ地下。
周りがざわざわする。みんなから見られる。
でもこういうのは慣れてる。日本人の誰もが知っている俳優だから。
流川るかわ豊ゆたか。
「あ~流川さんだよ。カッコいい!」
「笑顔と声が素敵だよね。」
とか聞こえてくる。
結婚して16年も経ったっていうのに本当にすごい。
確かにカッコいい!うん!素敵!
さすがうちのパパ。
自分が嬉しく思いながら親指を唇に当てて悩む。
「椎しい。喧嘩でもしたのか?」
ケーキが入ってる陳列棚を除いてる椎に聞く。
「何が?」
「アイツと口利かないの?さっき、あそこにいたじゃん。」
椎の瞳が少し揺れる気はしたけど
「そうなの?知らない~。これとかどう?」
白くてキレイな椎の指はイチゴがたくさん乗っかってるタルトを指した。
「うん。いいね。アイツらイチゴ好きだし。」
「すみません。これください。」
「かしこまりました。」
店員の人は冷蔵の陳列棚から真ん丸いイチゴタルトをだした。
豊はレジで支払いを済まして
「あとは、なんだっけ?」
「あとはね。お店に頼んであるプレゼント。取りに行ってから合流すれば間に合うかも。
これ内緒だから言っちゃダメだよぉ~。」
「俺のは無いか?」
「誕生日じゃないじゃん~今度の誕生日には考えてみる!」
「うん!しっかり頼んだ!じゃないとジェラシーするからね」
ニッで笑う顔が子供みたいに無邪気。
「もう~本当にいつく?」
「42です。」
楽しそうに話する豊と椎はきれいに梱包されたケーキを手にしてデパ地下の人ごみを抜け出した。