タッタッタッタッ……

(やばい、バスきたよぉ!!)


後ろを振り返り、乗ろうとしているバスが目の前に迫ってきているのを確認し、走る速度を上げる。


『発車します。ご注意ください』

「まってください、乗りますっ!!」



大野由美(オオノユミ)20歳



ギリギリ乗れたそのバスは、由美が通う大学には結構余裕のある時間でつくバスだ。

それでもこのバスに走ってまで乗るには理由がある。


(はぁ、はぁ、……あ、空いてる!)



まだ乱れる呼吸でその席を見る。

後ろから2列目の、歩道側が見える方の席。

二人がけのその席は、一人の男性が座っていて、そのとなりが空いている。

バスには空席がちらほらあるが、由美は決まっていつもその席に座る。



まだ息も整っていない状態でその席に向かう。

心臓の音がドクドクとうるさいのは、きっと走って来たせいだけではない。




時折窓側を見つめながら本を読む男性の隣に、静かに腰をおろす。