「キミが僕の名前をつけて。まだ名前がないんだ、僕」

 少年が笑顔で差し出すその手を、少女はとった。
 彼女はうなずいて、少年に相応しい名前を考え始めた。
 真剣に。かなり真剣に。
 そんな彼女の横顔に、少年は口付けをした。

「何するの!?」
「キミだって僕にしたんだよ。お返しだよ」

 驚く彼女の周りを桜の花びらが舞い踊る。
 少年の笑顔は花が咲くかのようだった。

「木と人間の姿じゃ、気持ちが違うの!」
「そうなの? ふふ、まあいいけど」

 そして、少しその笑顔の質が変わる。
 いたずらっ子がいたずらを仕掛けたときのような悪い顔。

「だって、それってキミが僕のこと意識するってことだよね? 大歓迎だよ!」

 くるくると周りを駆け回る少年に、あきれながらも少女は笑った。
 失恋の傷は癒えるだろうか。
 少年の存在で、少しずつ心が温まっていくのを感じる彼女なのだった。