「……は?な、にこれ……?」
僕は彼に駆け寄り、身体を抱き起こす。
かろうじて息はあるが、呼吸の度にひゅっと音が聞こえる。
ほとんど酸素が吸えていない。
それにこの出血量。
腹を何ヵ所も刺されてる。
吐いたのか口の回りも血に濡れている。
目は虚ろで、きっともう見えてない………。
「どうして、こんな………」
「麻、斗………?なん……だ………も…帰っ、たの、か……?」
「喋らないで。止血をする。」
「む……ゴホッ……り、だ………わ、かるだ………ろ」
分かってる。
きっともう助けられないって事ぐらい。
それでも抗いたいと思ってしまう。
「……反発派の奴らだね?そうだろ、それしかない。」
腕に抱えた澤村はゆっくりと首を横に振る。
「そ、んなこと………ど、でも……いいんだ……ゴホッゴホッ」
咳き込む度に血が溢れ出てくる。
「どうでもいいわけーー……アンタ、知ってたね?自分が今日命を狙われるって知っていたんだね?」
これには何の反応も示さなかった。
つまり肯定の意。
そっか……知っていたんだ。
知っていて、この人は………受け入れてしまったんだ。
「憎んでは……いけない………だれ、も………ゴホッ………ゴホッ………あら、そっては……だめ、なんだ……」
自分の死を目の前にしてもまだこんなことを言うのか…。
「……馬鹿じゃないの?本当。どうしようもない、馬鹿だね。」
「……スーツ、似合う………じゃな、いか……」
虚ろな眼差しは僕を捉えてはいない。
「……うん。着心地もいいから気に入ったよ。」
「ん………よかった…………あ、とは笑……顔見たかっ…………たなぁ………」
血と混じる滴が彼の頬を伝った。
力なく投げ出された彼の手を取り、僕の頬に触れさせる。
「ほら、笑ってるよ。鏡で練習したんだ。まだ下手くそだけどね。」
「麻、斗きれいな、かおだから………笑うと……もと……きれい、なる…」
少しずつ瞼が落ちていく。
「ケーキ……ごめ、ね…」
「うん。次はワンホールだよ。」
瞼が落ちきった時、彼は笑った。
優しい僕の好きな笑顔だった。
彼はもう涙を流さないはずなのに、彼の頬を伝う滴は流れ続けた。
それは僕の涙だった。


