「あ、サンキュー。携帯に電話してくれればよかったのに」
「携帯、教室に置いたままだから。持田くんに風馬のとこにいるよって聞いて、走ってきちゃった。ジュース、ぬるくなっちゃうもんね。」
テヘッと笑顔で首を傾けて話す優花に、俺の胸はまたキュンってなる。
ピピーッと笛の開始合図とともに、風馬の試合が始まった。
さっきはあんなにダルそうにしていた風馬は、試合が始まるとともに真剣な顔つきになり、素早いドリブルで敵チームを翻弄していた。
そんな風馬の姿を座って眺める、俺と優花。
「……へぇ、アイツ上手いじゃん」
そう呟いた俺に、隣の優花はふふふと笑う。
「……何、笑ってんの?」
「ううん。風馬ね……すっごくサッカー部入りたいみたいなんだよ。」
「へ?そうなん?」
「うん。で、顧問の先生に言ったら、次期キャプテンのユキちゃんにも言っておいでって言われて…でもなんか照れ臭くてなかなか言えないみたいなの。」
あぁ……
だから、俺の部屋の前うろちょろしてたのか。なんか言いたげだったし。
「それがなんだか可愛くて笑っちゃった」
優しい目をして風馬を見る優花を見て思う。
風馬には『優花』って実の姉貴なのに、全然姉貴扱いされてないのに……
『……あたしの弟だもん』っていつものふんわり口調じゃなくて強い口調で言ったときとか、
『誰のせいでもないよ』って泣いた風馬を一生懸命慰めていた姿とか、
今みたいな優しい目とか……
ちゃんと『姉ちゃん』してんだなって思った。
.


