「…あ、その音、電話じゃん。誰から?」


携帯を覗いた晴にそう訊くと、少し怒り気味に携帯を差し出される。


「……愛しのハニーちゃん♪」


言ってるトーンと顔が一致しなくて、明らかに晴のテンションがおかしくなってきていることはわかった。


晴に差し出された携帯の画面に表示された名前は『優花』だった。


持田はニタニタ、晴はニタニタ笑いながらの膨れっ面。

そんな二人に挟まれながらの状態で電話に出た。


「……もしもし?」

『あ…ユキちゃん』


さっき聞いたばかりの声なのに、また胸が熱くなった。


案の定、晴と持田は俺の携帯に耳を当てて、会話を盗み聞きする。


『……えっとね……なんかなかなか寝れなくて…。……透子ちゃんがユキちゃんの声聞いて寝たら?って言ってくれたから……かけちゃった。……さっき…話したばっかなのに、ごめんね』

「ううん、いいよ、んなの。……まぁ、俺も寝れなかったんだけど」


電話の向こうの優花に言ったのに、俺の言葉に晴と持田がやたら反応する。


晴が小さい声で俺の声真似して「……キミとのキッスを何度も思い出していてね…」とか言うから、気持ち悪くて晴の頭を小突くというよりど突いた。


「……でも、もう寝ないとな。…明日、自由行動であちこち歩くし、先生とかも見回りくるかも」


時計を見ると12時を少し回っていた。


消灯時間からもう2時間過ぎてるから、そろそろ先生たちの見回りがくる時間だろう。


『あ、そうだね。……うん、じゃあもう寝るね。……ごめんね、急に電話して』

「ううん、いいよ」

『……寝る前に、ユキちゃんの声聞けてよかった。……おやすみなさい』

「……うん、俺も。…おやすみ」


優花が電話を切ったのを確認して、電話を切った。