「……透子、どした?……言い過ぎだって。……優花、何にもしてないじゃん」
そう言ったけれど、透子は表情を変えず、何も言わない。
代わりに俺の手を強く引っ張って、連れて行かれる。
透子の家に行くまでの道……
考えるのは優花のことだった。
たまに暗い顔するのは、透子と喧嘩したから?
成宮と別れたから?
……なんで
俺の鞄、掴んだの……?
なんで、そんな顔…すんの……?
父さんとことと並行して考えるのは、いつも優花のこと。
そう……
いつも、いつも……
優花のことだった。
「……何か飲み物持ってくる」
透子の部屋に招き入れられた。
透子らしくキチンと整頓された部屋。
優花のヌイグルミや花柄のシーツやカーテンに囲まれた華やかな部屋とはまるで違っていた。
「おばさん、いないの?」
「……うん、今パート行ってるの」
そう言うと、透子は一階のキッチンへと降りていった。
優花とは違う、透子の匂いがする部屋を見渡した。
ここに来てまで、優花のことを考えてるなんて、本当に俺って最低だと思った。
『透子とちゃんと話したほうがいいと思う』
夏祭りのとき、電話で言われた晴のその言葉を思い出す。
もう、気づいていたはず。
優花を諦めるとか忘れるなんて、俺には出来ないって。
『……一緒に暮さないか?』
父さんの言葉と、優花への思いが交差する。
「……座ったら?」
振り返ると、両手にコップを持った透子が戻ってきていた。
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