『……会社設立後、一度だけ母さんに手紙を出したことがある。
だけど、返事は帰って来なかった。
……父さんは……ずっと、もう一度やり直したかったんだ……
自分勝手だってわかってる。
自分の軽率な行動で、ユキや実里をもっと苦しめてしまったこともわかってる。
………でも、父さんは……
もう一度……やり直したかったんだ。
………だけど……
もう……遅かったみたいだな…。
実里には新しいパートナーが出来た…』
父さんは涙で濡れて頬を手で拭き取る。
『………なぁ、ユキ……。
……父さんには…血の繋がった家族は、ユキしかいない……。
……もう一度……
家族とやり直したいんだ……。
………ユキと一緒に暮らしたい…』
そう真っ直ぐ俺を見て話す父さんに、返す言葉が見つからなかった。
すぐに答えなんて出せなかった。
少し考える時間が欲しいと言った。
父さんは『いつでもいい。ゆっくり焦らず考えてくれ』と悲しそうに笑って言っていた。
父さんが喫茶店を出て行ってからしばらくして出ると、優花がいた。
無性に抱きしめたくなった気持ちを、手を握って誤魔化した。
心配そうに優花に『ユキちゃんのパパは何の用だったの?』と訊かれても、きちんと説明出来ないくらい……頭ん中がぐちゃぐちゃだった。
変に心配かけたくないし、
何より…これは俺の問題なんだって思った。
だから…
『……母さん達には黙っててな』と言うことがやっとだった。
母さんが知ったら、また泣いてしまうかもしれない。
今は幸せでいつも笑顔の母さんがまた悲しんでしまうんじゃないかと思うと、誰にも言えなかった。
その一方で、
父さんが自分の足と目で、俺をずっと捜していてくれていたこと、
離婚しても、母さんと俺のことを考えてくれていたこと、
俺がもともと信じていた父さんだったことに…
………少しだけ嬉しかった。
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