だけど、あの日父さんは突然現れた。


優花を付け回す変質者かとおばけかと思っていたのに、それは父さんだった。


だけど、今更何の用だと思った。


もう父さんの顔なんて、写真を見なければ思い出せないくらい覚えていないし、

もう……自分の中では父親なんて『いない』者だと思っていたのにー。



それなのに、今頃俺の前に現れた父さんに腹ただしささえ感じていた。

それくらい、もう時は経ちすぎていた。





『……なに?話って』


父さんが現れたあの日の喫茶店。

優花が喫茶店から出て行ってから、父さんの顔がさっきより強張っていくのがわかった。


『………ユキは……今、幸せか…?』

『……まぁ……うん』


そう返事をしたけど、返事をしたあとで悩んでしまった。


優花のことが浮かんだからだ。



『……そうか。……父さんのこと……少しは覚えててくれたか?』

『………中1まではね。……それからは、いないと思うようにしてたよ』

『……そうか』


そう呟いた父さんは今にも泣き出しそうに、笑った。


『……なんでか、わかる?』


そう訊くと、父さんはイエスともノーとも言わず、もう氷が溶けきった水をただ見つめていた。


『………父さんが裏切ったからだよ。


……俺と母さんを』



喫茶店の中を彩るBGMは、聴いたことなんかない優しい音色のクラシックだった。

今の俺の心にはちっとも響かなかった。