「……ごめんな、優花」
あたしは首を横に振った。
ユキちゃんのパパがなぜ会いに来たのか、事情がわからないだけに何も言えなかった。
「………このこと、母さんたちには黙っててくれる?」
そう言ったユキちゃんがあんまりにもさみしそうに優しく笑うから、あたしは頷くことしか出来なかった。
ユキちゃんのその表情がなんだか不安に思えて、あたしは帰れず、喫茶店の外で待っていた。
やっぱり風は冷たくて、肌寒さを感じたけれど、ユキちゃんのことを思えば、そんなことどうでもよかった。
30分後ー。
先に喫茶店から出て来たのは、ユキちゃんのパパだった。
「……あれ?……君は…」
あたしがここにいることに、びっくりした様子でユキちゃんのパパがあたしを見る。
あたしはペコッと頭を下げた。
「………今日は急に来て、ごめんね。……ユキをよろしくね」
そう言うとユキちゃんのパパは、喫茶店をあとにした。
喫茶店のドアのガラス越しに、まだ中にいるユキちゃんを見ると、ユキちゃんは下を向いたまま一人座っていた。
その表情が悲しそうで…そんなユキちゃん見たことなくて、あたしは胸騒ぎを覚えた。
ユキちゃんのパパが喫茶店を出て、五分ほど経って、ユキちゃんは出てきた。
「……わっ…優花、待ってたのか?」
ドアを開けて、脇に立っていたあたしにユキちゃんが駆け寄る。
「……手ぇ、めっちゃ冷えてんじゃん。帰っててよかったのに……」
不意に握られたユキちゃんの手は、やっぱりあったかくて、その暖かさに安心する一方で、さっきまでのユキちゃんの表情が忘れられない。
「………心配だったの…。……ユキちゃんのパパ……何の用事だったの…?」
そう訊くと、ユキちゃんの顔が少しだけ曇って、すぐに笑顔になる。
「……ただの昔話してただけ。……久々だったから、話したかっただけだよ。…って、何年経ってんだよって話だよな(笑)」
ユキちゃんはそう言って笑うけど、あたしはうまく笑えなかった。
「……帰ろ。……ケーゴさん出張から帰ってんじゃね?」
そう言って、ユキちゃんはあたしの手を引っ張った。
.


