ゆっくりと振り返ると、少し先のほうでユキちゃんが電柱に隠れる誰かの胸ぐらを掴んでいた。
「……てめぇ、女のケツ付け回してどういうつもりなんだよ!」
電柱の影の誰かはおばけではなかったようだ。
ユキちゃんが胸ぐらを掴んで揺さぶっているせいで、電柱の影から誰かの服の一部がチラチラ見える。
薄暗いせいであまりわからないけれど、少し見えた足元は革靴だった。
「……誰だよ、てめぇ。何の用だ。警察突き出すぞ」
今にも殴りかかりそうなユキちゃんに、抵抗するような手が電柱の影から見える。
あたしはおばけとはまた違う怖さを感じて、その場から動けなかった。
「……ち、違うんだ。落ち着け。話を聞いてくれ」
電柱の影から聞こえたのは、少し渋くて低い男の人の声だった。
「……は?何が違うんだよ、昨日も付け回してたんだろ?……っざけんなよ、用があんなら、俺に言ってくれる?」
ユキちゃんが睨みつける先にいる人は誰なんだろう。
変質者かもしれないと、あたしはカバンから携帯を取り出した。
携帯を取り出す手が少し震えていた。
「……は?」
男の人に何かを告げられて、ユキちゃんが立ち尽くしていた。
電柱の影から伸びてきた手から、ユキちゃんが何かを受け取ったのが見えた。
それを見たユキちゃんは、手渡された何かを見つめたまま動かなかった。
「……ユキちゃん…!」
あたしは心配になって、ユキちゃんに駆け寄った。
.


