リビングから薄暗い廊下を抜けていく。
「…バカ。押すなよ!」
「ちげぇよ!優花が押してくるんだよ」
「風馬がお尻突き出してくるからでしょ?」
三人で縦一列になった状態で、玄関まで行く。
「……電気つけんぞ」
ユキちゃんが玄関のスイッチに手を置いて、あたしと風馬は無言で頷く。
パチッ。
玄関に明かりがついて、三人は息を呑んだ。
「……は?……母さんじゃん」
ユキちゃんがため息を吐いて言った。
風馬の影から覗き込むと、玄関のところで「う〜…」と唸りながら、実里ママが寝そべっていた。
どうやら、送別会でかなり飲んだらしい。
「なんだよー……唸ってるからてっきり優花がおばけ連れて帰ってきたのかと思ったじゃん」
さっきまで怖がりまくっていた風馬が、急に笑顔になる。
「母さん、んなとこで寝てんなよ、風邪ひくぞ」
ユキちゃんが実里ママの肩を揺さぶるけど、それでも実里ママは唸りながら眠り続ける。
「……あと、ついてきてたのって母さんじゃねぇの?同じ家なんだから、帰る方向同じじゃん?」
「……あぁ…そういうことか。もう、優花、怖がらせんなよ」
笑い合いながら、ユキちゃんと風馬はそう言ったけど、あたしは笑えなかった。
「……ううん……実里ママじゃない…」
あたしは首を横に振った。
玄関に脱ぎっぱなしの実里ママのハイヒールを指差して、あたしは言った。
「……あたしについてきてた足音……ハイヒールの音なんかじゃなかったもん……」
「………」
「………」
ユキちゃんと風馬、あたしが顔を見合わせる。
「……きゃあ!」
今度は三人とも同時に鳥肌が立つ身体を抱え込んだ。
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