「……ねぇ、あそこにいるのお姉さんじゃない?」


門限が厳しい麻依。

祭りはまだ終わってないし、名残惜しかったけど駅まで麻依を送っている途中で麻依がそう言った。


「……あ、マジだ。あんなとこで何やってんだ、あいつ」


実里さんに借りた紺色の浴衣を着た優花が、歩道の花壇のところに座り込んでいた。しかも、一人で。


「……優花!何やってんだよ、んなとこで」


そう声をかけ、近寄ると俺に気づいた優花の顔がぱぁ〜っと明るくなる。


「あ、風馬〜。それに麻依ちゃん。……よかったぁ」

「……どうしたんですか?」


俺の隣の麻依が心配そうにしゃがみ込んで優花に訊く。


「……鼻緒が切れちゃって……歩けなくて、どうしようかと思ってたの…」


そう言って優花が指を指した右足には鼻緒が折れた草履と、慣れない草履に痛みを我慢してマメが潰れた素足。


「……うっわぁ〜痛そー……。ってか、あいつは?……家まで送ってもらえばよかったじゃん」


そう言うと優花はシュンとなって俯く。


「……あたしの門限早いからって…もう帰ったの」

「…は?門限?門限なんてねぇじゃん」


そう言うと今度は黙り込んで俯く。


多分、優花のことだから前のことがあるし、家バレんのが嫌なんだろうなって思った。

あと、祭りも成宮とじゃ面白くなかったとか。


優花の表情で色々想像して解釈した俺は、それ以上優花に訊かなかった。


「風馬、お姉さんおぶって帰りなよ。あたし、ここで大丈夫だから」

「……バカ。んなとこで、一人で帰らすわけねぇだろ。祭りなんだから、ややこしい奴いるし…」


そういいながら、俺は携帯を取り出して電話帳からある人を探す。


「……誰かに電話するの?今日はパパも実里ママも仕事って言ってたよ?」


キョトンと俺を見上げる優花に言ってやる。


「……こういうピンチな時に、いっつも助けてくれる奴って一人しかいないじゃん」

「……え、でも…彼女といるんじゃないの…?」


勘のいい麻依はすぐに誰だかわかったようだ。


「……ここに来るか、来ないかはアイツが決めるっしょ」



電話帳から見つけたアイツの番号をタッチして、携帯を耳に当てる。


アイツを呼ぶコール音が鳴り始めた。