「……ユキがグズってっからだよ。松丘先輩の次は成宮か。……アイツ…気をつけたほうがいいよ?」

「……どういうこと?」


嫌な予感しかしない。

それは俺だけじゃなくて、風馬も感じとっていた。


「……『狙った獲物は逃さない』っていうのがモットーらしいから。ってか、見た感じわかんねぇ?」


背中を押していた風馬が俺の正面に回り、俺と視線が合うようにしゃがみ込む。


「……アイツ……優花、奪いにくるよ?……いいの?ユキ」


……そんなの嫌に決まってる。


アイツに限らず……


優花を俺のもんにしたいって気持ちは変わらない。


「………ぜってぇヤダ」

「……そうこなくっちゃ」


風馬はそう笑うと、俺の両手を思いっきり引っ張る。

前屈の形になって、また悲鳴に似た声が出て身もだえる。


「……ほんと、ユキって身体かってぇな」


いつもならベンチから俺のこんな姿を笑う優花の笑い声が聞こえてくるのに、今日は優花がいない。


身体の痛みに耐えながら、その笑い声に癒されていたのに、今は痛みしか感じなかった。


今のこの優花との距離と、成宮が来たこの状況がかなりマズイことはわかっているのに、正直どうしたらいいのかわからない。


優花を渡したくない。


優花が他の奴の彼女になるなんて考えたくもない。


……だけど。



それでも俺は『好き』だと伝えるべきなのか悩んでいた。


優花に避けられてる気がするから。





『……ユキがグズってっからだよ』


その風馬の言葉を目の当たりにするまで
、俺は優花とのこの距離を縮めれなかった。