「……お……覚えてないの?」


不安そうな優花の顔に、可哀想だと感じたが嘘を突き通す自信もなかった。


「……わりぃ、優花。……昨日、俺、風呂上がってから缶ジュースだと思って飲んだのが缶チューハイだったみたいで……一気飲みしたから一気に酔いまわったみたいで、全然覚えてねぇんだけど…なんか俺、変なこと言ってた…?」


そう言うと優花は一瞬だけ悲しそうな顔をして……でもすぐに表情を変えた。


「……ふふ(笑)そうなんだ。急にユキちゃん、楽しそうに笑い出したり、歌い出したりするから、ユキちゃん変なのって思ってたの。それでユキちゃんとここで遅くまで喋って寝ちゃったんだよ」


ニッコリ笑って優花が立ち上がる。


「あ、あたし…顔洗ってくるね」


なんだかあまり腑に落ちなくて、呼び止めようと思ったのに、優花は一目散で部屋を出て行ったから、それ以上は訊けなかった。


優花が洗面所へ向かってから、風馬が経緯を根掘り葉掘り訊く為にまた戻ってきた。


「……どうだった?ヤッちゃった?」


相変わらずのニンマリ笑顔の風馬に嫌気がさし、俺はベッドに顔からダイブした。


「……わかんね」


……何かあったのかもしれない。


……何か言ったのかもしれない。



でも……


「覚えてない」と言ったときの、一瞬だけの優花の悲しそうな顔がやけに頭に残って……それ以上訊くのが怖かった。


もしかしたら、酔った勢いで優花に自分の気持ちを打ち明けていたのかもしれない。

もし、それが本当だったとしたら、優花が今なかったことにしようとしてるように見えたから……迷惑だったのかもしれない。


『お兄ちゃん』なのに、変なのって思ったのかもしれない……。



ベッドにまだ残ってる優花の温もりも香りを感じながら、そんなことを考えていると、少しだけ泣きそうになった。