「……観覧車に乗りたい」

「……観覧車?」


観覧車って……晴と乗ったのに?

……それに……


「……高いとこ、苦手なんだろ?」


そう訊くと、優花はまた俯きだしたから。


「いいよ。優花が乗りたいなら、最後に一緒に乗ろ。ってか、俺もあんま高いとこ得意じゃねぇんだけど(笑)」

「え、そうなの?一緒だ(笑)」


そう優花が笑ったから、また二人で手を繋いで観覧車のところまで歩いた。


観覧車は夕暮れ時のせいか、家族連れよりカップルのほうが多かった。

みんな、観覧車という密室の中で愛を語ったりするんだろうなぁ……


そう周りのカップルを羨ましく思いながら観覧車に乗った。

観覧車の中で、向かい合わせに座った俺と優花はゆっくりと上空へ上がるゴンドラで、外を眺めていた。

まだまだ低い高さでは、余裕で外を眺めていたが、マンションの高さ7階くらいの辺りで優花はビビりだす。


「あぁ〜……やっぱりダメだぁ〜…怖くなってきた…」


優花はそう言うと、外から視線を逸らすように俯いた。


「やっぱダメなんじゃん(笑)なんで乗ろうなんて言ったんだよ」


そう笑って訊くと、優花は「だって…」とさみしそうに呟く。


「だって……あたしにとって、観覧車って……なんとなく特別な場所だったから……。……そういう特別な場所が嫌な思い出のまま残るのが嫌だったの……」


俯いたままそう話す優花の髪色が、夕日の光でキラキラ光る栗色に見える。


その栗色に、無性に触れたくなった手を誤魔化してポケットに突っ込む。