「泉の頭じゃそれくらいしか覚えられないでしょ」
胸にグサグサ突き刺さるその言葉。
いや、うん。暗記物は苦手だけども。
「そ、…そんな事ないよ」
苦笑混じりのその否定は、若干頬がひきつっている気がする。
そんな私の気持ちに気付いているかの様にはるるんが顔を覗き込んで、
「本当に?」
と、問いただす口調で言葉を紡ぐ。
覚えられないかもって一瞬思ったのはバレバレか。
「やっぱり覚えられないかも」
「でしょ」
ニヤッと意地悪に笑うと、そのままはるるんはチラッと教室の前にある時計へと目をやった。
そして、私の机に頬杖をつくと口を開く。
「泉の大好きな梶木は、今日はまだ来てないのね」
「ハッ!本当だ!何で!?」
梶木君はいつも早く来る方ではないけど、ギリギリって事もない。
はるるんのお勉強の話で梶木君チェックをしていなかったけど、それでも梶木君が教室に入って来てたら直ぐに気付く。
気付く自信がある。
いつも視界の隅に梶木君を捉えたら即座に反応してるから。
「えー、そんなの知らないわよ」
どうでも良さそうに返事をするはるるんは、多分本当にどうでもいいと思っているんだろう。
梶木君が居ても居なくても、どっちにしてもはるるんへは問題はないってやつだ。
はるるんに問題はないのだが、私にはめちゃくちゃ死活問題な訳で。
時計とドアを目で行き来する。
「あっ、でももうチャイム鳴っちゃう!梶木君、遅刻!?」
朝から梶木君の匂いを嗅げないなんて、結構ショックかも。
早く来て下さい、梶木君!


