「脳って!いや、脳なんだけどさ……。私が死んだら意識は無いから見えないと思うのですが?」
「あー、それもそうだね」
「ですよね」
頭の中を覗いてみたいという発想から、脳を見るという考えに至るなんて、流石というかなんというか、……梶木君らしい。
賢いのに、どこかが他の人とは違っている。
それが、いつも私の大好きな香りを漂わせている梶木颯太という人なのだと思う。
「お弁当食べよ、泉!」
昼休みに入ると私の席へとお弁当を持ってやって来るはるるん。
腰まであるさらさらの長い髪を右手でパサッと払う仕草はなんとも大人っぽい。
私とは大違いだ。
私の前の席の椅子を拝借してそこに腰を下ろすと、私の机にお弁当を置く。
「はるるんは今日も手作りお弁当?」
「そうよ。料理好きだからね」
首を傾げると、にこっと微笑まれる。
その微笑みも絵になるのが流石だ。
はるるんがパカッとお弁当の蓋を開ければ、その中身は今日も豪華絢爛だ。
今日は和風仕立てらしく、メインに焼き鮭が入れられている。その横にあるのは、天ぷらだろうか。
そして、毎度入っているお弁当に彩りを添える人参の甘煮。この人参の甘煮を花の様に見立てて形作ってあるのは、はるるんのお弁当には必須なのだとか。
これを自分で毎朝作って来るのだから、はるるんの料理の腕前は相当だと思う。
「私の分も作って下さい!」
頭を下げる私に返って来たのは「嫌」というたった一言。
しかも拒否の言葉だ。


