急いで梶木君の匂いをもっと嗅ごうと顔を近付けようとしたが、梶木君は私がその行動をとろうとする事を予測していたのか椅子ごと少し後ろに退いているという用意周到ぶり。
「さようなら。馬鹿な森山さん」
ニコッと嘘くさい笑みを携えてひらひらと手を振ってくる。
「つ、次の休み時間に来ます!」
それだけ言って立ち上がると、自分の席へと早足で歩を進める。
その私の背中に向かって梶木君が言葉を吐くのもいつもの事なんだけど。
「はいはい」
今日聞こえてくるのはその言葉だけ。
脈が速まる。
振り返りたい衝動に駆られるのに、振り返るのも恥ずかしい。だって私の顔は今、真っ赤に染まっている気がするから。
いつもなら『もう来ないで下さい』って言葉が絶対に続く筈なのに。
それって、私が梶木君の所に行っても良いって事だよね。
それって、……ちょっとは私の事を好きになってくれたって事…かな?
はるるんには、今の所は今までのままの関係で良いかなって言ったけど、やっぱり……好きになって欲しいかも。
付き合いたいまではいかないけど。
そう思うのも直ぐかもしれない。
バクバクと激しく脈打つ心臓を右手で押さえ、そんな事を考えながら自分の席の椅子を引いて腰を下ろす。
と、丁度そのタイミングで授業開始のチャイムが鳴り響いた。


