「な、なるほど!」
「凄い納得してるね」
手を打って大きく首を縦に振る私に向けられる白い目。
いつもの私達の会話だ。
違うのは私が梶木君に勝手にドキドキして、勝手に傷付いただけ。
私だけ。
「あっ、うん。だってやりそうだったから」
机の上の遺伝の本を閉じるとへらっと笑って頭をぽりぽりと掻く。
それに溜め息を吐いて、
「ほんとそういうの止めて貰える、森山さん」
と切実に言ってくる梶木君は、全くもって何を考えているのか私には想像も付かない。
「迷惑ですかい?」
「心の底から迷惑だけど」
「そこまで!」
「まだこれでも少ない方だと思うよ」
「少ない方なのっ!それより酷いのって一体……」
どれ程ですかい!?
いつも通りの会話を続けていれば、段々とあんなに煩かった心臓も元通りだ。
そこで梶木君が未だ座ったままの私の頭をぽんっと叩いて、
「ほら、早くしてよ」
その言葉と共に図書館の出口へと歩き出す。
彼の後ろ姿を追う様に机の上の本を掴むと、椅子から立ち上り、慌てて駆け出す。
「ま、待ってー!」
呆れた顔をした梶木君が後ろを振り返って、その場で足を止めてくれている。
その行動にまた、キュンッと胸が締め付けられた気がした。
持っていた本を返して、二人で並んで図書館から外に出る。
時間はもうお昼だ。
グーと鳴りそうなお腹も、今日は隣から香る梶木君の匂いで満たされているからか、まだ鳴ってはいない。
ほんと、この匂い好きだなぁ。
あの人と同じ匂い。


