「あ、ありがとう」
差し出された本を受け取ると、何とか喉から声を絞り出す。と、クスッと彼から笑みが溢れた。
ふわっとしたその笑みは彼が纏う甘い香りに凄くマッチしていて、目が離せない。
見惚れる程、心臓が煩い音を奏でる。
自分と梶木君だけが異空間に居る様な感覚に陥る。
このままだと梶木君に取り込まれそう。
そう思った瞬間、その感覚を振り払う様に頭をぶんぶんと横に振り彼に向かって口を開いた。
「って何で、梶木君が図書館に居るの!?」
大きな声を出す私の声が静かな図書館に響き渡る。
それに、蔑む目を向ける梶木君。
「図書館では静かにって習わなかったの、馬鹿な森山さん」
「す、すいません」
思わず頭を下げるが、直ぐにひょこっと頭を上げて首を傾げながら今度は音量を気にして口を開く。
「で、何で?」
「居ちゃ悪いの?」
質問に質問で返してくるというこの暴挙。
そして、私に突き刺さる視線が痛い!
ほんと、そんな目で見んで欲しい。
怖っ!ってなりますから。
「いや、全然居て良いんだけど、何しに来たのかなぁ?と思ったから」
頭を右手でぽりぽり掻きながらへらっと笑ってそう口にするのに対して、
「へぇ」
という梶木君の相槌。
どうでも良さそうな相槌をする癖に、私に向けられる目は鋭くて、思わずビクッと肩が揺れる。
と、兎に角だ。
こういう時は謝るに限る。


