教室に着くと、窓の側に立っている人が一人いる。


後ろ姿をパッと見ただけでも誰か分かる。それ位、私はその人の側にいるんだ。



「あれ?梶木君何してるの?」



そう声を掛けたのは、今はもう放課後で、梶木君はいつも授業が終わったら直ぐに帰宅していたから。


こんな時間まで学校に残っている彼なんて今まで見たことがない。



「森山さん。目、覚めたんだ」



ゆっくりと私の方へと顔を向ける彼の表情が余りにも優しくて、トクンッと私の心臓を鳴らす。



「あっ、うん」



そう返事をするのが精一杯だ。


なのに彼はそんな私の態度を馬鹿にした様にフッと鼻で笑う。



「本当に森山さんって鬱陶しいよね」


「な、何で!?」


「僕の前で倒れないでって言っておいたのに」



これは、……お怒りですか!?


確かに言われてたけども。



「そ、それは…、すいません」



頭を下げるのが、一番の解決策だと判断した私の考えは間違っていないと思う。


ここで頭を下げなかったら、きっと梶木君はぐちぐちと私を貶し続ける言葉を吐くのだろう。



その時コツコツという足音に続いて、頭を下げる私の横にふわっと香る甘い匂い。


すうっと息を吸い込んで、その匂いで身体を満たすのはもう無意識な行動だ。



「もう、大丈夫なわけ?」


「ああ、うん。もうすっかり!」



真横から聞こえてきた彼の声に顔を上げると、予想以上に近い梶木君の顔。