「何で?」
そう首を傾げる私の鼓動は少し速い。
「そんなの、ふらふらしてる森山さんが隣で倒れて、僕が保健室まで運ばなきゃならなくなったら嫌だからに決まってるでしょ」
あー、そういう事か。
「な、なるほど」
何とも梶木君らしい理由に納得してしまった。
納得すると共に元の早さに戻っていく鼓動。
確かに目の前で私が倒れたのを放って置くというのは、人目が痛い。
それでも、梶木君なら放って行きそうだけど。
そう思いながら、その場で手に握った梶木君のハンカチを見つめながら苦笑いを漏らした。
「鬱陶しいからさっさと行ってくれる、森山さん」
机に頬杖をついて再びそう言われれば「あ、はい」とだけ言って梶木君の席から自分の席へと戻る為に彼に背を向けるしかない。
そのまま自分の席へと歩いて行く。
梶木君の匂いが好きだから、私は梶木君にくっついている訳で。
梶木君の匂いの付いた物を貸して貰えるのならくっつく必要は無い。んだけど、梶木君から離れるのが少し寂しいと思ってしまうこの気持ちは何なんだろう。
梶木君の匂いは今手元にあるハンカチから漂ってきているのに、それだけじゃ足らないと思ってしまう。
私、……何がしたいんだろ?
そこまで考えたが、頭の痛みに邪魔されてそれ以上何かを考える気にならない。
……まあ、いっか。
結果、考えるのをそこで放棄して自分の席に戻ると、手に持っていた梶木君のハンカチを鼻に押し当てて机に顔を突っ伏した。


