「私の心配じゃないの!?」
頭が痛いのに突っ込むのは、もう癖になっているんだと思う。
それに、
「そんなの、当たり前でしょ。森山さん、馬鹿?」
梶木君がこう言ってくるのも癖みたいなものになっているのかもしれない。
「馬鹿だけど、馬鹿じゃないよ」
「意味が分からないね、その言葉」
「そうかな?」
そう言って首を傾げた時、ぐらっと視界が揺れる。
慌てて、目の前にあった梶木君の机に手をつけた為に倒れる事はなかったが、今のはかなり危なかった。
一瞬だけだが、視界が白く薄れた。
その時「はい」という言葉と共に私へと差し出された紺と黒の縞模様のハンカチ。
「えっ、何?何でハンカチ?」
「それ貸してあげるから、今日は僕の側に来ないでね」
目を丸くする私に梶木君から出た言葉は耳を疑う様な言葉だ。
貸してくれる!?
私に!?
この梶木君の甘い香りが付いているハンカチを借りていいなんて、夢みたいなんだけど。
そっとハンカチを受け取るも、やっぱり本気で梶木君が言っている気がしない。
「い、いいの!?」
「今日だけだよ。ほら、さっさと自分の席に戻って貰える」
問い掛ける私に淡々とした口調で答えながら、しっしっと手で私を払う様な仕草をする。
今日だけ。その台詞が頭にこびりつく。
今まで梶木君の物を貸して貰えた事なんて1度も無い。寧ろ、『僕の物に触らないで貰える、森山さん』と何度言われた事だろうか。


