「それ。そのパン落ちたからもう要らない」
「えっ?」
梶木君の言葉で下に落ちた物へと視線を落とすと、そこに落ちていたのは私の顔にぶっかったせいで少しくしゃっと形を歪にしたコロッケパンで。
何でコロッケパン?と思った瞬間飛んできた言葉に驚いて目を丸くさせた。
「馬鹿な森山さんに恵んであげるよ」
それって、……私にくれるって事?
梶木君が私に?
さっきあんなに嬉しそうな顔をして私を馬鹿にしたのに?
椅子から腰を上げ、下に落ちたコロッケパンを拾うと「これって」とまで口にしたが、
「別に森山さんが可哀想だったからとかじゃないからね」
私の為に買って来てくれたの?と続ける言葉の前に被された彼の言葉。
その言い方はいつもよりも早口で、慌てて否定している感じだ。それに加えて、彼の目がいつもより優しい気がする。
「じゃあ、何で?」
首を傾げる私は、実はちょっと期待してたりする。彼の優しい言葉を。
でも、やっぱり梶木君は梶木君だった。
「馬鹿な森山さんが異常な変態行為に走らない為にだよ。我が身が大事だからね」
「変態じゃないってば!」
思わず突っ込んでしまった私に向けられる目は、いつもの梶木君から向けられる馬鹿にした目に戻っていて、さっき一瞬だけ見えた彼の優しい目は見間違いだったんじゃないかと思う程だ。
「煩いよ、変態」
いや、絶対に見間違いだ。
そう心の中で断言していると、梶木君はもう私に話す事も無くなったからか、スタスタと歩を進めて自分の席へと戻って行く。


