その時、頬が緩んでいるだろう私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。



「森山さん」



聞き間違う筈が無いその声音。


声の聞こえてきた方へと顔を向ければ、やっぱりそこには梶木君が立っていた。


同じ教室内にいるのだが、教室の入った所に立っている梶木君と、窓側の席に座っている私との間は少し距離がある。



「梶木君?」



少し大きめの声を出し首を傾げる私に、見下す様な視線を送ってくる梶木君。



一体、何の用ですかい!?


見下す為だけに名前呼ばれた…とか。


いや、いくらなんでもそれは無いか。



そんな自問自答していた時、梶木君が右手を大きく振りかぶり手に持っていた何かを私に向かって投げつけた。



「ギャッ!」



そう叫んだ時には、バシンッと顔面にヒットするその何か。


まさかの豪速球で投げつけてくるから、受け止める事すら出来なかった。



鼻が、…鼻がとてつもなく痛い。


これ、絶対に鼻が低くなった!


只でさえ低めの鼻なのに!


いくら美味しい甘い香りをぷんぷんさせている梶木君でも、これは私だって怒りますが。


いきなり顔面に向かって何かを投げつけられたら、誰だって怒ると思う。逆に怒らない人なんていないんじゃないだろうか。



ムッとしながら梶木君へと向かって口を開く。



「な、何事ですかい!?」



が、私のそんな怒り混じりの言葉に梶木君が動揺を見せる訳もなく、平然な顔をしてスッと私の顔にぶつかって落ちた物へ指を差した。