「えっ、何で!?」
慌てて後を追い掛けながらそう叫ぶと、歩は止めずにクルッと顔だけが後ろを振り返る。
「森山さんに貸しを作っておく為にだけど」
梶木君らしい。……じゃなくて!
「貸しって!いや、貸しなんて作らなくても何もしないよ!」
強いて言うなら匂いを嗅ぐ位。でも、それも……。
手を伸ばして梶木君の腕をやっと掴んだと思ったら、もうそこはレジの真ん前で。
「煩いよ、森山さん」
ギロッと鋭い視線で私を睨み付けながら、いつもより低めの声音で言われてしまっては、項垂れて目を逸らすのが自然の摂理というものだ。
それでも、「いや、でも……」と諦めの悪い言葉を漏らすと、再びやって来た梶木君の鋭い視線と低めの声音。
「煩い!」
そう一喝されれば、もう何も言えない。
ビッグパフェ屋さんのお会計は、梶木君持ちになるのは確定だ。
レジの清算が終わって店を出た所で梶木君の横に並ぶと口を開いた。
「ありがとう!」
「別に。貸しだから」
そう言いながら、私からプイッと顔を逸らした梶木君の耳はほんのり赤く染まっている気がする。
梶木君は多分、照れ屋さんでもある。
クスッと笑ってそんな分析をしていると、来た時同様にふわっと左手が温もりに包まれた。
引っ張られているわけでもなく握られているだけの手。
「あっ、手……」
思わずそう口にしてしまった。


