ぎりっと唇を噛み締めると、口の中に血の味が広がる。そうでもしないと目に溜まっている涙がまた溢れ出そうなんだ。
「本当の事は、……言わないんですか?」
「言えないんだってさ。泣きながらそう言う理子ちゃんを見ていたこっちもいたたまれない気持ちになったもんだよ。
もし本当の事を言ったら颯太君が壊れてしまいそうなんだとか。雪ちゃんを追って死んでしまうんじゃないか……。そう思ったら言えないんだよ」
思い込んでるのなら、本当の事を言ってしまったら解決するんじゃないか…なんて簡単に考えてた。
でも、そんな簡単な事じゃなかったんだ。
真実を知る事で、その真実に対応出来なくて壊れてしまう事だってあるんだ。
梶木君は、……きっと壊れてしまうんだ。
それって……
「梶木君が、……自殺しちゃうかもって事?」
口にすると同時に、ゾゾッと背中を寒気が走る。
梶木君が自殺しちゃうなんて考えたくもない。
それでも、
「そういう事だろうね。一番近くで颯太君を見ていた母親がそう言うんだから、強ち間違ってはないんだろうね」
目の前で真剣な目をして言葉を紡いでいくおばあちゃんの信憑性は凄く高くて。
この仮説が崩れる事は無いと言われている気分になる。
「そんな……。じゃあ、梶木君は……、ずっと…このまま?」
「どうだろうね。それは、颯太君次第なのかもしれないね」
唇をさっきよりも強く噛み締めたのに、ぽろぽろと目頭から頬へと伝う水はもう止まらない。


