それでも話を切り出す勇気がなかなか出なくて視線を畳へと向けたまま口を閉ざしていると、
「で、泣く様な事を聞きに来たのかい?」
ゆっくりと優しい声音が飛んできた。
「えっ!?」
思わず顔をおばあちゃんに向けて声を上げてしまう。
だって、泣く様な事って、……今の私は泣いていないのに。
「涙の流れた跡が頬にくっきりついてるよ。泉ちゃんはそそっかしい所があるからね」
ふふっと笑ってそう言いながら、おばあちゃんは自分の頬を人差し指で指し示す。
それにつられて頬へと手を当てると、肌の上を少しざらつく跡が指の腹に触れた。
涙の跡すら気にしてなかった。
慌てて自分の頬に付いた涙の跡を手の甲で擦っていると、おばあちゃんがふぅっと息を吐いた後に優しい声が降ってくる。
「それで、……それは、颯太君の事かい?」
目を見開いておばあちゃんを見つめるも、おばあちゃんはいつもと変わらずふんわりとした優しい笑みで私を見ていて、声が詰まってしまう。
「な…、何で……」
私はまだ何も言ってないのに、どうして私が聞きたい事が分かったの?
頭の中を占める疑問は、おばあちゃんのふふっという笑うと、
「ばあさんっていうのは何でも知っているものさ」
「…………」
その言葉で終わらせられてしまうんだ。
駄菓子屋のおばあちゃんは、私なんかより一枚も二枚も上手なんだ。
「さあ、何でも聞いてごらんな」
私の目をじっと見つめてふんわりと微笑んでくれるのは、きっと私が話を切り出しやくすしてくれたのだろう。


