「か、梶木君、見て下さい!」
小刻みに震える手で、財布の中を見える様に開いたまま梶木君へとズイッと近付ける。
梶木君が私の財布の中に目を落とした瞬間、一瞬だけ時が止まったかの様に動かなくなる梶木君。
その後にくる、はあっという盛大な溜め息が耳に響く。
「何でこの財布には80円しか入ってないの、森山さん?」
そう。そうなんだ。
この財布には80円しか入ってないんだ。
「朝にお母さんからお昼用に貰ったお金、入れるの忘れてた」
自分で言葉にすると、なんとも情けなさが満ちてくる。
「森山さんって、本当に馬鹿だよね。コロッケパンは120円だよ」
へこんでいる私に追い打ちを掛ける如く、馬鹿だよねの部分を強調して言ってくる梶木君の言葉がグサグサ胸に突き刺さる。
いつもなら突っ込む所だか、実際私の財布には80円しか入っていない訳で。
どう考えても、梶木君がいう通り『馬鹿』なのだから言い返す術などないのだ。
お金は80円しかないのにも関わらず、私のお腹のぺこぺこ具合は最高潮に達しているらしく、小さなグーっという音が聞こえてくる。
この際、コロッケパンは諦めよう。
そう決心して恐る恐る梶木君へ向けて口を開いた。
「80円以下のものは?」
が、返ってきた答えは泣きたくなるような事実だ。
「無いね」
「マジっすか」
無いんですかっ!
じゃあ、じゃあ、私のお昼ご飯は!?
このお腹をどう満たせと!?


