雰囲気や今の会話からして、あの人は梶木君のお母さんなんだろうな。
私、梶木君の彼女になってしまったよ。
梶木君のお母さんって、……梶木君と違い過ぎる!
梶木君なら、絶対にこんな簡単に人を家に上げないよ。こんなんじゃ泥棒に狙い撃ちにされるんじゃ……。
あっ、だから梶木君が手厳しいんだ!
なるほど。家族ってよく出来てるなぁ。
……じゃなくって、私、入って良いんだよね?
寧ろこの状況で引き返す選択肢はない。
「お邪魔しまーす」
そろそろと足を忍ばせて、玄関へと足を踏み入れる。
玄関に出ている靴は簡単に履けるつっかけと、男物の運動靴だけ。
後は綺麗にしまわれている。
運動靴が梶木君の物だとすると、本当に今は梶木君一人だけなのか。
梶木君だけという状態にちょっとほっとしたと共に、ちょっと残念。
そう思うのは、もしかしたら梶木君のおばあちゃんに会えるかもしれない!と心の隅で思っていたからなんだと思う。
屈んで脱いだ靴を揃えると、奥まで続く廊下を進む。
歩く度にキシッキシッとしなる床板と薄暗い廊下に外からの光が差す様はどこか幻想的だ。
そして、なんといってもこの家は梶木君の家なのだと実感する。
なぜなら、家に足を踏み入れた瞬間から私の鼻腔を擽るあの甘い香りが漂ってきたのだ。
もう、この家ごと大好きです!
若干鼻息を荒くしながら廊下を進んでいくと、私の大好きなぽん菓子の匂いが一際強くなった気がして足を止めた。


