ああ、それにしてもだ。
今から会社に出ていくという時に、梶木君のお見舞いだから、お邪魔します…なんて言えない。
めちゃくちゃ言いたいけど。
「そう…なんですか。じゃあ、迷惑かもなので、……帰ります」
めちゃくちゃ帰りたくないけど。
が、彼女に私の気持ちが伝わったのか、戸から一歩外に出て来ると、にこにこしながら私の肩をバシバシと叩く彼女。
「大丈夫、大丈夫!勝手にお見舞いしてやってくれてオッケーだから。寧ろ、颯太一人にしておくのも心配だったから、丁度良かったよ!」
豪快な雰囲気の彼女に呑まれてしまう。
「えっ、でも…」
と吃るのが精一杯だ。
嬉しい。嬉しいんだけども、それって結構な迷惑女になるのでは…という思いが強い。
好きな人の家族には良い印象を与えたいっていう見栄が、私にだって一応はある訳で。
そんな事をうだうだと考えていると、彼女がちらっと腕時計に目をやり声をあげた。
「あっ、もう時間が!」
そのまま、戸を開けたままで私の横を通り過ぎる。
「えっ!あの…」
慌てて振り返り彼女に手を伸ばすが、
「じゃあ、ゆっくりしていってね!あっ、颯太の部屋は2階の一番手前の部屋だから!」
にこっと優しそうに笑ってそう言い切られる。
「えっ、あっ、…はい」
彼女に完全に呑まれてしまった私。
それを分かっていたのか、じゃあねと言うと、ひらひらと手を振って走って行ってしまう美人さん。


