「え?は、速水くん…?」

体育館の入り口から声がし、振り向くとそこには練習着のままの速水くんが立っていた。

「え?帰ったんじゃ?」
「お前が使ってるボール、さっきまで俺が使ってたんだよ」
「え?そーなの!?」
「そーだよ」
速水くんは頭を掻きながら私に近づき、ボールを指差す。

「バスケできるんだろ?ちょっと、相手してくれよ」
「え、でも…」
「なんだよ?別に相手してくれるだけでいいし」
「違っ…、できないの」
「は?さっきしてたじゃん」
「それは…、ちょっと、久しぶりだなって」
「中学ん時、バスケ部入ってたか?」
「ん…、中2まで」
「やめたのか?」
「まぁ…」
「ふぅん…」

速水くんはそれ以上聞いてこなかった。
ただ、ぼんやりとボールを眺める。

「速水くん、帰らないの?」
「まだいけるだろ」
「とっくに下校時間過ぎてるけど」
「は?マジか!」
速水くんは体育館にある時計をみる。
針はそろそろ7時を指そうとしていて、速水くんははぁっと息を吐いた。

「速水くんって、あほなの?」
「お前さ、そんなストレートに言うか?」
「いや、思ったこと言っただけだし」
「失礼なやつだな」

速水くんはリュックからスポーツドリンクを取りだし、喉に流す。
私はボールを倉庫に直して、自分の鞄を持つ。