「なぁ」

バスケ部に入って数日後のある日。
練習が終了し、私がマネージャーの仕事を済ませていると、速水将太くんが声をかけてきた。
珍しいことに、私はすごく緊張した。

速水くんは、この数日間で圧倒的な実力をみせ、レギュラー入りをしたのだ。

「なに?」

「あんた、斎柳中学出身だろ?もしかして、平野海知ってるか?」

平野海…。

その名前を聞いて、とくんと心臓が鳴る。

「知ってるよ?だって、幼馴染みだし」
「どこの学校行ったんだ?」
「それは…、わからない」
「は?幼馴染みなのにどこの学校行ったかも知らねぇの?」
「うん、ごめん」
速水くんはチッと小さく舌打ちをした。
私は少し顔を下に向けた。

「海と、なんかあったの?」
顔を下に向けたまま、聞いてみる。

「別に、ただ、どこの学校行ったか知りたかっただけだ」
「速水くん、時岡中学出身でしょ?」
「なんで、知ってんだ?」
「見たことあるよ。速水くんの試合」
「で?」
「別に意味はないよ」
「あ、そ」
速水くんはそう言って、踵を返して歩き出す。


ごめん、速水くん。私、ほんとは海がどこの学校に行ったか知ってるんだ。
でも、もう嫌だから。
速水くんと海がバスケをしてるところを見るのが。