「空っていい名前だな」

ふと呟いた言葉に、私の心臓は大きく鳴った。オレンジ色に染まった海が、穏やかに揺れる。
「え?」
私がそう返すと、そいつなんでもないように無邪気な笑顔を見せる。

「急になに?」
私がわざと顔を背けながら聞くと、そいつは「くくっ」と笑う。
「急に思った」
「なにそれ、変なの」
「別にお前ほど変じゃねーし」
「そっちのほーが変人でしょ」
「うっせ」

そう言って唇を尖らせ、飲み終わった炭酸の缶を、数メートル先のゴミ箱に向かってシュートをうつ。

カコンッと音が鳴って、缶はゴミ箱に収まる。

「っしゃ、ナイッシュー」
「キレイに入ったね」
「お前のも入れてやるよ」
「まだ飲んでるし」
私の缶ジュースを指さして、ニヤニヤと笑う。私はそいつを軽く睨み、最後の一口を飲む。

「飲んだか?」
「残念、自分で捨てますよー」
そう言って、私はゴミ箱から大きく距離をとり、そこからシュートをうつ。

「入った」
「は?そんなの俺でもできるし」
「百回うって、一回しか入らないよ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべると、少し拗ねたような顔してそいつは歩き出す。

「ほら、帰ろーぜ」
「ボール忘れてるよ」
「お前が持っとけ」
ベンチの傍に置いていたバスケットボールを指さすと、そいつは頭をガシガシと掻きながら言った。

私は、ボールをしっかりと持ち、先を歩くそいつの背中を見つめる。
そいつはくるりと私の方を向き、右手を上げた。
ボールを投げると、片手で受けとり、ドリブルをつく。

「早く帰ろーぜ。空」

「うん…」

「なんだよ」
「なんでもないよ」
「嘘つけ」
「嘘ついてないよ」
「バーカ」
「あほ」
「チビ」
「そっちがチビじゃん」

なんて言い合いをしながら、私はそいつの隣を歩く。

「ありがとう。海」

ポツリととても小さな声で告げる。
そいつは…、海は、私の背中を軽く叩いた。

「よっし、俺からボール取ったらなんか奢ってやる」
「は?そんなの、私が勝つよ?」
そう言ってドリブルして、私から逃げる海。

ごめんね、海。
ありがとう。