もう40代も半ばだろうに、少しも偉ぶらず、同じ目線で話をしてくれるが、この日は少し違った。

「金沢先生は、何年目だっけ?」
「4月で10年目ですね。」
「そうか。」
「中川は先生が小論の指導したんですよね。」
「あー、その時、新採用だったっけ。」

中川は、吹奏楽部の生徒で、うちの学校で初めて六大学に進学した生徒だった。自主応募推薦対策で小論文指導をしたのが、その時は図書室のみだった大野先生だった。

「あの子は、中等部の時からしっかり考えてたから、私は何もしてないんだよね。」

そう言って、大野先生はケラケラ笑った。

「あのとき、金沢先生も一年目なのに、大変だったよね。よく続けられて、えらいよ。」

大野先生の言葉に、なんだかほっとした。音楽の教師でもないのに、自分の経験から吹奏楽部の顧問になり、その事で心ない言葉を投げかけられたこともあった。