かえでは、いろんな人間のスイッチを知らぬ間に押しまくるような、そんな人間だった。不穏な空気をすぅっと変えたり、折れそうな気持ちをそっと支えたり。

「もう大丈夫ですか?かえでちゃんのこと。」
「いや、たぶん、無理。」

猛烈に謝られたけど、仕方ない。たぶん、かえではかえでで、自分の一生で必然の出会いだったし、そばにいたこと、愛したことが、自分を作ってくれた。感謝しているし、うまくまとまらないが、人生上大切な人に変わりない。

町田には、いつも要らぬ心配ばかりかけてしまう。

「悪かったな。」
「いや、大丈夫。ただ…」
「ただ、先輩と谷川先生、すごくうまくはまってて…」

なんじゃそりゃ。

「たぶん…」
「あー、ないない。仕事でそういう感情は持たないし、彼女だってこんな年上困るだろうし。

っていうか、すぐそういう方向にかんがえるのは、オッサン化の一歩じゃねーのか?」

たぶん、きっと、谷川先生が一番困る感情だろう。


と、そのときは思っていた。押されていたスイッチには、まったく気づかずに。