「先輩、なんかありました?」
「え?うん、まあ。」
「カンタベリーコラール、やっとやるみたいだし。」

確かに、やっと踏ん切りついた。

「谷川先生見てると、いろいろ思い出したりしますよね。」
「え?」
「言うか悩んでたけど…」
「何を?」

隣にいる町田の顔からは、笑顔が消えて、空を見上げていた。

「大丈夫。たぶん、同じことを俺も思った。」

え?という顔をしてこちらを見て、少し考えたあと、言葉を続けた。

「かえでちゃんみたい。さっき、寝落ち数秒前まで話してたりする様子とか、夏合宿のときみたいだなって。」

まったく同じことを思った。

「ただ、かえでとは違う。彼女はもっとしっかりしてる。自分の言葉の力とか、たぶん、それなりに分かってる。」