「ま、春日のおかげだけどな。」

ぽんっと肩に手をおいた先生は、一番言われたくない言葉をかけてくれた。

春日は同じ部活、3年間同じクラスの、腐れ縁の仲だ。

「あのさ、先生。」

鍵を締めている背中に向かって、俺は本心をぶつけることにした。

「もっとちゃんと言ってくれませんか。」
「何を?」
「春日に。恋愛対象にはならないって。」

生徒は恋愛対象にならない。

金沢先生は、そのことを何度か口にしているけど、千佳の中にある恋愛感情は相変わらず、ど真ん中に先生がずっといる。千佳の中にある絶対的な存在に、俺はどう向かえばいいか分からない。

言っても聞かない。突きつけてしまえば、こっちに向いてくれる訳でもない。真実を積めて目の前に出せば、千佳をつぶしてしまいそうで、怖くてできない。

たぶん、先生の中にも、どこかに同じ感情があるのかもしれない。