はーはー息を切らせてミラーの下に立つやいなや、顔を上に向けて
「優はもう来た?」とたずねた。

「ああ、ひろみ。ちょっと遅かったな。さっき帰ったばかりだ」

「そう・・・」

「そう、がっかりしなさんな。いつかきっと良いことがあるさ」

「うん」


ひろみがミラーボーと話している間に、小さな女の子の手を引いた女の人と、もう一人の女の人が、十字路の向かいの角でばったりと出会い、大きな声で話し始めた。
 
「あら、おくさま」

「あーら、先日はどうもわざわざ送っていただいて、どうもありがとうございました」

「いえ、ほんとに何もできなくて」

「うちの子も、四月から若草学園の小学校に行くことになりましたのよ」

「あらー、それはおめでとうございます」

二人は、女の子のことなどすっかり忘れて、おしゃべりに夢中になっている。

 その時、東の坂の上に、青い色のスポーツカーが急に現れた。スポーツカーはスピードを上げながら坂をどんどん下って来た。

「あーっ、女の子が!」