☲ミラーが笑った◎

「どこの犬だ、こいつは。早くあっちへ行け」

 ミラーボーの声が聞こえないのか、犬は気持ちよさそうに小便を続けている。

「ひろみ、この犬を追っ払ってくれ」

 ひろみの姿を見つけたミラーボーは、ひろみに訴えたが、ひろみはその犬が怖くてどうすることもできない。

長い小便をし終えた犬は、なにごとも無かったように、今度は南に向かって歩き出した。

「ほんとうにしょうがない犬だ」

ミラーボーはまだ怒っている。ひろみはノートを破り、砂を取ってきて、その上にかけてやった。

「ありがとーよ、ひろみ。まったく気持ち悪いったらあらしねー」

「犬はああやって、あっちこっちに自分の匂いをつけているんだって、先生が言っていたよ」

「そんなことは分かっている。だから腹が立つんだ。まったく」

「犬にもミラーボーの声が聞こえればいいのにね」

「ああ、昔はおれと話をする犬もいたんだが」

「へー、犬がミラーボーと話をしたの?」

「ああ、昔は確かにいた。でも最近はそういう犬と出会っていないな」

さきほどの犬は、どこの角を曲がったのか、すでにその姿を消していた。