暦の上ではもう春だというのに、また冷たい風が吹き、せっかく大きくなりかけた梅のつぼみが、再び堅いガクの中に閉じこもってしまった。

どんよりとした空から、時折細かい雪が舞い降りてくる。

 終了のチャイムが鳴ると同時に、ひろみはスクールバッグを片手でつかみ、校門を走って出て行った。

「ひろみー」

クラスメイトの一人が、ひろみの後姿を見て大声で呼んだ。

「ひろみー。待ってよー!」

ひろみはどんどん坂を駆け下りて行く。

「あいつ、いつも先に帰っちゃうんだ」

「つきあい悪いよ。あいつ」

 そんな声がうしろから聞こえてきたが、ひろみは少しも気にしないで、一目散に坂を駆け下りて行った。

十字路に人影は無い。

ひろみがミラーボーに聞いた。

「ミラーボー、優は帰って来た?」

「いいや。黄色いスクールバスは通ったが、誰も降りなかったな」

「ふーん。朝も来なかったんだろう?」

「ああ、黄色いバスは来たが、優は来なかったな」