「わからないか、ひろみ。それはろう梅の花びらだ」

「ろう梅?」

ひろみはろう梅と聞いてもピンとこなかった。

「匂いをかいでごらん。いい匂いがするだろう?」

「うん、する。でも、これ、どうしたらいいの?」

「ああ、本のしおりにしてって、優が言っていたな」

「本の間にはさんでおけばいいんだね」

「ああ、そうすれば次にどこから読んだらいいか、すぐに分かるな」

「わかった。ミラーボー、優がきたら、ありがとうって言っておいてね」

「ああ、言っとくよ」

「きっとだよ。じゃあ、またね」

「ああ、またな。遅刻しないようにな」

「うん」

 ひろみはスクールバッグを肩にかけ、右手にそのしおりをつかんで、にこにこしながら東の坂を上って行った。