周囲を広い田んぼに囲まれた台地に何台ものブルドーザーやトラックが入り、またたく間にその台地全体が住宅地になった。

そこに新しい家が建ち始めてもう少しで一年になる。

ひろみの家の周りにも一軒また一軒と、新築の家が建ち始めたが、まだまだ空き地は多い。


「ひろみ、まだ寝ているの? 早く起きなさい」

一階の台所から母親が顔を出して言った。

「うーん、起きるよ・・、起きる・・。もう少し・・」

声は聞こえたが、起きた気配はない。


 なかなか降りて来ないひろみにしびれを切らした母親が二階に上がってきた。

「ひろみ!いいかげんにしなさい!学校におくれるよ」

と言うなり、ひろみが身体に巻きつけていたふとんをパッとはぎ取った。

「うわっ」

「うわっじゃないでしょ。もう起きるのよ!」

 ひろみはすごすごとベッドから降り、着替えてから、階下の洗面所へ降りて行った。

焼けたパンの香りが台所から廊下へ、廊下から洗面所に漂ってきた。

顔を洗い、台所に入ったひろみに母親が言った。

「早く食べなさい。きょうはハムとそのジャムしか無いからね」

「ジャム?バターは無いの?」

「ぜいたく言うんじゃないの」