背後から迫って来ているのは、これまた白銀高校のセーラー服を身に付けた女子高生。

しかしながら、誠には彼女の顔も名前もさっぱり覚えが無いのだ。

放課後になり、返却された小テストの結果に溜め息を吐き、下駄箱でスニーカーに履き替えた。そこまでは普段と何も変わらない。だが、傘を差した瞬間に、名も知らない女子生徒が自分の事を好きだと言いながらハサミの刃先をこちらへ向け迫ってくるなど、誰が予想出来ただろうか。

「ねえねえ待ってよ! なんで待ってくれないの? アタシが可愛くないから? アリスくんの好みじゃないから?」

「だからそういう事じゃなくて……!」

「それならアリスくんの好み教えてよ! アタシ、頑張って理想の女の子になるから! だからお話ししよう!」

さっぱり意味が分からない、と誠は思った。自分は髪を金や茶に染めているわけではないし、クラスの人気者という立場でもない。数人の友達がいて、彼女がいた経験は残念ながらナシ、という極々平々凡々な人間である。
それがいきなり、恐喝まがいの告白を受けているのだ。思考回路が追い付くわけがない。

「アリスくんアリスくんアリスくん!!!」

「うわっ!?」

文化部寄りの体力と滑る足元があいまって、水溜りに思い切り足を突っ込んだ。雑技団でもない為、当然そのままスライディングするように転ぶ。制服はもはや、水と泥で悲惨な状態になってしまった。

「いたた……」