「今日は転校生が来る。九条樂君だ。仲良くしろよ。
樂君、入りなさい」


担任の教師が淡々と告げると、入り口からスタスタと歩いて樂が来た。雰囲気が朝と結構違う。


「九条樂です。よろしく」


樂がぺこりと頭を下げると、皆口々に返事をしていった。僕にもあんな風に返してほしい。


「樂君の席は…あそこだな。分からないことはみんなに聞けよ」


教師が指差したのは真ん中の席の一番後ろ。
樂は黙ってその席に座った。


「じゃ、これから読書時間だ。転校生に質問するのも良いぞ」


そう言って教師は教室から出ていった。


一気に樂の机に人が集まる。


「よろしくね!」だの「分からないことある?」だの無駄に騒がしくて、黙って読書したいのにその声が嫌でも耳に入る。


最初はやる気無さそうに返答していた樂だったけど、いい加減イライラしてきたのかぶっきらぼうに言った。


「あのさ、僕に質問する暇があったら俊弥に謝ってよ。ほら、早く」


樂がそう言った途端にみんなの顔が引きつる。別に僕だって望んでないよ。


「何で?あんな奴いじめられて同然じゃない?」


女子生徒の言葉にそーだそーだと続ける。そろそろ僕もイラついてきた。ねえ、と口を開きかけた時、樂が机をバンッ!と叩いて立ち上がった。


「あんな奴?いじめられて同然?ふざけないでよ!それでもクラスメートなの!?」


怒りを露にして叫ぶ樂に気圧され、みんなは黙りこんだ。樂はさらに追い討ちをかける。


「ほらそうやって都合の悪い時だけ黙るんだ。そんな君らなんて大っ嫌い。仲良くする気も起きないよ」


乱暴に椅子を机の下に仕舞うと、僕の机に向かって歩いてきた。そして僕の机に頬杖をついて不機嫌そうに言う。愚痴をこぼすように。


「やっぱあいつら最低だった」


「あはは……でも怒鳴ってくれてありがとう。嬉しかったよ」


僕が笑顔で言うと樂は照れたように笑った。