今はまだなにもない、先生の左手、薬指へと目を向ける。 早晩、そこにはめられるであろう指輪を思い、胸が痛んだ。 やはり、こんな悪あがきは、ほんとうじゃない。 だからといって、従順に気持ちがついてくるほど、わたしは大人になりきれてない。 「婚約なんて、先生には早すぎる」 掠れた声で吐き捨てて、わたしは走って教室を出た。