「は…離れろっ!!」

「え…?」


 赤面した顔を見られたくなくて、そう夢子が叫ぶと、翔汰はきょとんとした。

 しかし、抱きとめた翔汰の腕の力は、増すばかりで。


 こいつ、割と力、……強いな…。


 いつの間にか、翔汰にギュッと抱きしめられた形になっていた事に、夢子が気付いたのは、そんな事を考えてから少し経った後の事だ。


「離せ、って……!」

「やだよ」

「…は?」


 すっぽり翔汰の腕の中に納まった夢子は、即答されたその答えに拍子抜けした。

 
「君の事が……」


 更に強く、ギュッと翔汰は夢子を抱きしめた。


「好きなんだから…さ」


 耳元でそう囁いた翔汰。

 口を金魚のようにパクパクさせている夢子。

 夢子が屋上で自殺しようとした所を、翔汰は止めた。

 無理に掴んだら、ポキッと簡単に折れてしまいそうな夢子のその腕は、ヤンキーとはいえ、1人の女である事を示していた。

 グイッと引っ張れば、いとも簡単に夢子は体勢を崩した。

 
 これ以上、……傷つけたくない。


 翔汰は、自分を下敷きに、夢子を抱きとめた。

 想像してたよりも遥かに軽い夢子の体。

 
 あったかい。……夢子。


 腐っても人間。

 
 君が朽ち果てて、誰も君を見向きもしなくなくなったって、僕は、僕だけは君を守る。君を信じるから。