「誰も泣かない……そう、思ってた?」


 無言の肯定。


「そんな事、ないよ」


 振り返りたい。けれど、振り返れば決意したこの思いが、崩壊してしまいそうで。


「人間は脆いんだ。…優しく扱わないと、脆すぎてすぐこわれちゃう」


 1人で勝手に翔汰は喋り出した。


 よくこの空気でペラペラ喋れるもんだなあ、おい。


 夢子は、呆れかけていた。


「僕は知ってる。…この手でたくさんの人を傷つけてきたから」


 2人の間にヒョオと風が吹き抜けた。


「…ねぇ、君も人をたくさん傷つけてきただろう?」

「!!」


 掛けられた言葉に腹が立って、夢子は勢いよく振り返ると、


「のぉわっ!?」


 腕を掴まれ、体制を崩した。

 自分の下には、翔汰がいて。


「助けられた………。良かったよ…」


 耳元で、そんな声が聞こえてきて。

 声、というより、ほとんど吐息に近いのだが。

 チラと、夢子が吐息のする方を見やると、


「っ!!」

「ん?」


 顔、ちっか!!


 すぐ隣、下手すれば頬と頬がくっつきそうな距離に、翔汰の顔があった。